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ムーンライトジョーカー 三浦麻旅子

第1回  旅の始まり

結ぶほどに離れていく。
"再生"と銘打って。壊している。そんな日々。
微かに揺れる天秤は傾くことが無い。
消えやすい記憶。
乱雑に散らかった部屋の片隅で、ふと視線を感じて顔を上げると、金色の丸い額縁の窓から「ハロー、チャイでもどう!!」と心をくすぐるジョーカー、カリヤ。
その目の奥は何を知っているのだろうか。
閉じ込められていた埃っぽい空気とカリヤのタバコの匂いがした。
数えてみたら18年も経っていた『マルチサーカス』の時間が色褪せること無く流れ込み、新鮮に蘇る。

1987年友人に誘われて女子2人旅。初インド。
日々ロックバンドなどの撮影をしていたその頃の私にとって、インドの匂いは私を写真の世界に導いた横浜のロックバンドTENSAWにも通ずるものがあった。
溢れるストレートなエネルギー。見る物を写し込むクルクルした子供達の瞳。埃っぽい喧噪。市場には野良牛が陣取り、暗い国際空港や駅のターミナルは踏みそうになるほどに人々が溢れている。
マサラとオイルの匂い。ジリジリとした太陽。何もかもが濃密で絵になる地。
興味を隠さないしつこさには疲れるけれど、忘れた頃に思い出すその空気は私を誘った。

それから5年の間に、安宿に泊まる一人でのバックパッカー旅と、
仕事で、日本寺への巡礼目的の少し贅沢なインドを体験して、全く違う側面に複雑さと奥深さを知ったが、私には安宿の方が性に合うなどとも思っていた。

そして1992年の秋。ライフワークとしての被写体を探っていたある夜、夢を見た。
そこで私は、汽車に乗り、サーカスを探していた。残念ながら出会う前に目覚めてしまったけれど、”サーカス”というキーワードは私をワクワクさせ、きっと出会えるはず。そう感じた。私は、彼らを探そうと心に決め、4度目のインド旅行に旅立った。

この旅のメインイベントは、ラジャスタン州のプシュカール郊外で11月の満月に向けて5日間開催される、砂丘をラクダが埋め尽くすという世界最大規模のラクダ市だった。
けれど、逸る気持ちは夢で見たサーカス。
インドには大きなサーカス団がいくつかあると聞いていた。
最初にサーカスに行き当たったのは、古都オールドデリー。城壁の近くに興行していると聞いて喜んで観に行った。ステージ奥には生バンド。調教された動物。金網の球体の中をぐるぐる周るオイル臭いバイク乗りの芸。綱渡りに、見事な空中ブランコ。客いじリして笑いをとるピエロのトリオ。曲芸師はネパール人が多い気がする。立派なテントの大サーカスで盛況だった。
楽しいけれど夢の中で探していたサーカスとはどこか違う。その夜は撮影の許可を求める気にはならず、出会えない自分にガッカリして雑踏の中、とぼとぼと宿に戻った。
旅は始まったばかり。私はどこで彼らに巡り会えるのだろうか。

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